読書       

               

・椿山課長の七日間   作者:浅田次郎  出版社:朝日新聞社  
                          
 紹介:46歳で忙しくて突然死した椿山課長(デパート勤務)が死後の世界で7日間だけ現世に戻ることを許可されて遣り残したことをやる、というのが大体の話の流れ。文庫に付いていた帯の「やり残したことが多すぎる−このまま死ぬわけにはいかない」という一言が目にはいって読んでみた。期待どうりの内容ではなかったが面白かった。ちょっと泣けた。現代小説を読みたいと思ってこの本を選んだ。現代社会の中(まあ学校とかでもいいんだろうけど)での出来事を書いてあるものが現代小説だと思った。面白いのが椿山課長のお父さんの人柄である。浅田次郎は家族の欠陥(家族に限らず)から生まれる心の孤独をうまく書く。家族を失ったり、居ないことにより起こる主人公や他の登場人物の不幸などの状況によって引き起こされるどうしようもない心情を描いている。たとえばこの話では、働きずめの46歳が突然死ぬのだがその妻が他の男と不倫していた、それに椿山課長は死んでから初めて気づく。またデパートマンとして渋谷のデパートに入社以来のセックスフレンドが自分のなんてなんともおもってなかっただろうと勝手に思っていたのが実はずっと言えずに椿山課長のことを愛していたこと。それを言えないまま椿山課長は奥さんと結婚してしまう。働いてばかりで何にも気づけなかった、死んでから気が付くなんて、というのが椿山課長の心情。またもっと恐ろしいことに息子はその不倫相手の息子で実は自分の息子ではなかったということにも気づく。この息子陽介君は実際こんな小学二年生いないだろ、と思うぐらい頭がよく話の中でも重要な役。今の自分の生活では椿山課長のような家族のつながりを身近に感じる機会が少ないので、椿山課長の心の孤独には状況が違う自分はそこまで感情輸入できなかった。本を読むときには、登場人物の孤独が自分の辛い心情とかと似ていたりして共感して、それが自分にはない考え方とか出来事によって小説の話の中で解決することで新しい考えができてちょっとでもすっきりしたいと思って本を読んでたりする部分がある。小説では孤独はなんなかの形で解決されたりして、この話ではその心の孤独を埋めるのがまた家族だったりする。この役目は椿山課長のお父さんと息子の陽介君である。二人がありないくらいいい人でちょっと泣けた。そのほかに、椿山課長と一緒に蘇った、ひと間違えで殺されてしまった仁義のあついやくざの組長と、交通事故で死んだ捨て子でお金持ちの養子になった小学二年生の根岸雄太君が椿山課長と同じくあの世から蘇ってやりのこした事を解決しようと行動する。登場人物が分かりやすくて読んでるときは面白かった。読んだらはい終わり、という感じがした。あとひとつ印象に残ってるのが、椿山課長のセックスフレンドの佐伯知子の言葉。「自己表現のできない女は損よ。大人の女なら必ずしも自己主張をする必要はない。でも、自己表現はしなくちゃだめ。主張は権利だけど、表現は義務。そのあたりをはきちがえると、上司に誤解されたり、部下に嫌われたり、同僚にうとまれたりする。実力も努力も正当に評価されない。」 あ、表現は義務なんだ、だから黙ってたら無実の罪でバイトで上司の的にされるんだ。本音は言わなくてもいいけど、むしろ言えないけど表現はしなくちゃいけない… うまくやるのが大人。