読書     

               

・ナイフ  作者:重松清  出版社:新潮社                                                       
 紹介:いじめを題材にした作品。短編が五つ入ってる。最後の一つだけはいじめじゃなくて家庭と学校の親子の問題を書いている。重松清独特の雰囲気が面白い。なんせ暗い。暗くて境遇に恵まれていない人、この本ではいじめが題材なのでいじめられている人の心境が結構書かれるわけだがそれが作品全部をとおして同じように暗い。考え方が暗い。もちろん小説だから解決策も示されるわけだけど、それもなんか暗い。あと、ラストの話のしめがくさすぎるところがあってそれは、こんなんじゃ納得できないな、と勝手に思ったところが多かった。不幸で暗くても、その人なりの大切なものを見つけられる、とか。これ読んだときはかなり気持ちが暗いほうにいってしまった。全部の話で登場人物が親子とその友達。中学校か小学校での話。三つ目の話はキャッチボール日和。この話のいじめが一番はげしい。親は元高校球児で、たくましく、単純で短気で涙もろい父。名前は出てこないが語り手が、子供である主人公の親同士の友達の子供の女の子なのでおじさんと呼ばれることが多い。主人公の、おじさんの子は体力がなく、暗い性格ですぐうつむいてしまい、極端に無口で気が弱い男、大輔君。この話のいじめが一番ひどい。おじさんは大輔がいじめられていない信じたい。でも大輔君は実際にいじめを受けているんだよ。おじさんはそれにきづこうとしない。キャッチボールだっておじさんは大輔君に気合だ根性だという。でも気合や根性なんてどうしようもなく沸いてこない子だってない子もいるんだよ、と語り手の女の子。そしてある日、ついに、大輔君がいじめられていることを知ったおじさんは学校に乗り込む。クラスの子供達を前に教室の前で、「大輔、こいつの前で言ってやれ。ゆうべの笑い声は、たしかにこいつだった、この卑怯な奴だったって、ほら、ちゃんと言うんだ」「大輔!来い!オトコだろ、おまえ!」。「やめて、おじさん!」。大輔君は教室で吐いて倒れこんでしまう。おじさんはそこから初めて考え方をちょっと変える。最後の場面で、最初から登場する、大輔君の名前の元になった、おじさんが死ぬほど大好きな野球選手の荒木大輔の引退試合での一言。荒木大輔は昔甲子園のスターだったがそののちはプロ選手としては落ちぶれていった選手。「次の回に登板して、打たれたっていいんだよ。そんな、無失点で終わるなんてダイスケらしくないじゃないか。三十九勝しかしてないのに、四十九敗もしてる奴なんだぞ。そういうやつなんだ、ダイスケは。そこがいいんじゃないか。」おじさんはおじさんなりに子供と関係を持ってる。ほとんど全部の話で、親の子供への関わり方が書いてあった部分が面白かった。最初の話はわにとハブとひょうたん池で。親に、いじめられるのがひどい、かわいそう、同情されるのは自分が弱いから、と思われるぐらいなら、いじめをうけたほうがましだと思える、ちっぽけで強いプライドを持って一人で女子中学校のクラス全員からの理由もなくハブにされてもそれに負けじと戦う女の子の話。こういうちっぽけで強いプライドは女の子ならではだと思った。四話目はエビスくん。重松清は一人ぼっちの主人公の話ばかり書いてきた。でも四話目のエビスクンは相棒の物語、出会いの物語、裏返せば別れの物語として書いたもの。これが一番泣けた。